「趣味のはずなのに、なぜか気が進まない…」
「楽しみにしていたのに、急に義務のように感じてしまう…」
そんな経験はありませんか?
こんにちは。火遊びをこよなく愛する金重です。先日、まさにこの「好きが苦痛に変わる」という現象を、身をもって体験しました。
それは、来月のファミリーキャンプに向けて、新しい相棒として迎え入れた一台のランタンがきっかけでした。
ワクワクのはずが…沼の入り口で感じた心のブレーキ
ガジェット好きのキャンパーなら一度は憧れる、ドイツの名品「ペトロマックス」。その風格と美しい灯油の灯りに魅せられつつも、なかなか手が出せずにいました。そんな中、いわゆる「中華コピー品」ながら、非常に評判の良いモデルを発見。「これを育てていくのも一興だ!」と、意気揚々と購入ボタンをクリック。

商品が届くまでの数日間は、まさに至福の時でした。「キャンプでどんな灯りを見せてくれるだろう」「メンテナンスも楽しそうだ」と、想像は膨らむばかり。
そして、ついにランタンが到着。ピカピカのボディを前に、私のワクワクは最高潮に達している…はずでした。
しかし、ここで予期せぬ心のブレーキがかかります。
妻から「キャンプでいきなり使えないと困るから、ちゃんと動作確認しておいてね」と言われた、その瞬間だったかもしれません。あるいは、箱を開けた瞬間に「さあ、性能を試さねば」というプレッシャーを自分で感じたのかもしれません。
あれほど楽しみだったはずのランタンに、急に触手が伸びなくなってしまったのです。「やらなきゃ」という義務感が、純粋な好奇心を覆い尽くしてしまいました。結局、玄関に置かれたランタンの箱を横目で見ながら、2週間も放置してしまったのです。
この「もったいない」時間。一体、私の心の中で何が起きていたのでしょうか?
「好き」を分類する思考ツール「PLAYモデル」
この心の謎を解き明かすヒントが、組織心理学者マイク・ラッカー博士の提唱する**「PLAYモデル」**にありました。
PLAYモデルは、私たちの活動を4つのカテゴリーに分類し、日々の「楽しさ」を意識的に増やしていくためのフレームワークです。
カテゴリー | 名称 | 特徴 | 今回の例 |
Pleasing | 快い活動 | 手軽にできて心が和む活動 | ランタンの灯りを眺めながらコーヒーを飲む |
Living | 価値ある活動 | 自己成長や深い満足感に繋がる活動 | ランタンの構造を学び、メンテナンスする |
Agonizing | 苦痛な活動 | ストレスや義務感が強く、避けたい活動 | (変化後) 動くか不安なランタンの動作確認 |
Yielding | 流される活動 | 無意識に行い、後に虚しさが残る活動 | ランタンを放置してスマホを眺める |
ランタンの購入から到着までは、間違いなくL
(価値ある活動)でした。しかし、ある一点を境に、それは私の中でA
(苦痛な活動)へと姿を変えてしまったのです。
なぜ「価値(L)」が「苦痛(A)」に変わったのか?3つの心理的ワナ
PLAYモデルで現状を把握した上で、さらに深掘りしてみると、3つの心理的なワナにはまっていたことが分かりました。
1. 「好き」が「義務」にすり替わる「アンダーマイニング効果」
純粋に「楽しいからやりたい!」という気持ち(内発的動機づけ)でいたところに、「妻に言われたから」「キャンプまでにやらねば」といった外的な要因(外発的動機づけ)が加わると、本来の「好き」という気持ちが蝕まれてしまうことがあります。これをアンダーマイニング効果と呼びます。
私の心の中では、無意識に「自分の楽しみ」が「課せられたタスク」へとすり替わり、やる気を削いでいたのです。
2. 「言われたくない」心の反発「心理的リアクタンス」
たとえ自分がやろうと思っていたことでも、他人から「やりなさい」と言われると、急にやる気がなくなる。これは「心理的リアクタンス」という心の働きです。自分の自由が脅かされたと感じ、無意識に反発してしまうのです。「自分のタイミングで楽しむつもりだったのに!」という小さな抵抗が、行動にブレーキをかけていました。
3. 「完璧にやらねば」というプレッシャー
「動作確認」という言葉は、「失敗は許されないテスト」のように聞こえます。「もし動かなかったら面倒だ」「中華製だから不具合があるかも…」という不安が、純粋な好奇心を「失敗への恐れ」に変えてしまいました。
「好き」を「苦痛」にしないための4つの処方箋
この苦い経験から、大切な「好き」という気持ちを守るための具体的な対策を見つけました。
処方箋1:『自分の楽しみ』に取り戻す儀式を行う
義務感をリセットし、「これは自分のための時間だ」と脳に再認識させることが重要です。
- 環境を整える: 好きな音楽をかけ、コーヒーを淹れるなど、リラックスできる「趣味の空間」を演出する。
- 目的を再定義する: 「これは義務じゃない。キャンプで最高の時間を過ごすための、自分自身の楽しみなんだ」と心の中で宣言する。
処方箋2:「タスク」を「遊び」に分解する
「動作確認」という大きな塊で捉えず、ハードルの低い「遊び」のステップに分解します。
- 「まず箱から出して、デザインをじっくり眺めてみよう」
- 「今日はパーツを触って感触を確かめるだけ」
- 「マントルを取り付けるのって、なんだかワクワクするな」このように、一つ一つの工程を楽しむことに集中します。
処方箋3:周りを「指示者」から「共犯者」に変える
家族やパートナーを巻き込んで、一緒に楽しむ仲間にしてしまいましょう。
- 「すごいランタンが届いたよ!一緒に火入れ式しない?」と誘ってみる。
- 「このランタンをいじるのは僕の聖域だから、週末にゆっくりやるね!」と事前に宣言し、自分のペースを守る。
処方箋4:不確実性すらも楽しむ
「もし動かなかったら…」という不安を、好奇心に転換します。
- 「もし動かなくても、それもまた一興。構造を調べる良い機会だ」と考える。
- 特に今回はコピー品。「アタリハズレも含めて、この子を育てていこう」というマインドセットでいると、心が軽くなります。
まとめ
2週間という回り道をしましたが、最終的にランタンに火を灯した時の感動はひとしおでした。そして、この一連の心の動きを客観的に見つめたことで、趣味とより深く付き合っていくための大きな学びを得られました。
「好き」という気持ちは、とてもパワフルな一方、とても繊細です。もしあなたが、かつての私のように趣味の前で足踏みしてしまっているなら、ぜひ一度、自分の心の中を覗いてみてください。
そこに潜む心のメカニズムを知るだけで、きっと大切な「好き」という感情を守り、育てていくことができるはずです。
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